連続ブログ小説 くりーむぱん①

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 軽トラ一つ通れない路地裏は、潮の匂いがした。床屋、銀行、干物屋、神社、いろんな店と家が所狭しと並んでいる。でも、まだ明るい時間なのに人出はほとんどなくて、カモメの鳴き声と、波打つ水の音が聴こえる。木造の町屋の角をまがると、小さな川が流れていて、その先で、川が海と混じりあっているのが見えた。                                            

「けんとくーん」                                       

 橋の上で川の岩にとまっていたカモメをじっと見ていたら、あかりの声がした。気がついたら、あかりは川を渡って、ずっと先に立っていた。僕は足どりを早めて、あかりの元まで歩いた。

「行くよ」

 あかりは僕の右手をとって歩き出した。あかりに引っ張られて歩いた。小学校は終業式の午後放課で、明日からは夏休みだった。あかりが僕の手を離す気配はなかった。細い細い路地を進む。潮の匂いがさらに強くなっていく。きつく握られた右手がじんわりと熱を帯びる。本当に誰も人を見かけないから、この世界にあかりと僕の二人きりでいるような気持ちになる。

「まだ?」                                         「もうちょい」

「着いたよ!」                                    

 あかりがぱっと手を離した。こじんまりとした駄菓子屋さんだった。ソフトクリームの置物が店の前に置いてあって、ペラペラののれんをくぐると、宝石みたいにお菓子がいっぱいに並んでいた。僕がお母さんと一緒に行くようなスーパーマーケットでは見かけない種類のものもたくさんあった。

「おばあちゃーん」

 あかりが大きい声で叫んだ。すると、店の奥から白髪の杖をついたおばあさんが「はーい」と言って出てきた。そして、僕のことをちらりと見た。

「あら、お友達?」                                        「うん。けんとくん」                                               

 僕はおばあさんと目が合って軽くうなずいた。                                     

「それじゃ、サービスしなくちゃね」                                         「けんとくん、何食べたい?」

 あかりが僕の方をぱっと見た。僕は、しばらく駄菓子の山を見ていた。チョコ、グミ、飴、煎餅。親の方針でお菓子をほとんど食べられなかった僕にとっては、目に入るもの全部がごちそうで、正直、何でも良かった。そのとき、入り口にあった置物のことを思い出した。

「ソフトクリーム」

 「バニラ?」あかりが尋ねる。僕はうなずく。おばあちゃんは、よっこいせと言っておもむろに立ち上がった。店の奥によく見たらソフトクリームのマシンがあった。

「はい、どうぞ」

「ありがとーございます」僕は、受け取ったコーンのソフトクリームを両手で握りしめた。もうしばらくして出てきたあかりのソフトクリームは、チョコソフトだった。

「ちょっと食べる?」

砂浜へと続く防波堤に腰かけて、あかりが僕にチョコソフトを向けた。僕は「ありがとう」と、バニラソフトを含んだ口で言って、チョコソフトをもらった。遠慮を知らなかった小学生の僕は、小さな口で、大きく一口、チョコソフトをかじった。

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